Dasha Rushが捉える音響空間とサウンドの関係性 – トイフェルスベルク元スパイ塔跡地

words : ARI MATSUOKA

ベルリンの壁が崩壊した1989年以降、物凄い早さで急成長を遂げるこの街には、今もなお未開発の廃墟が沢山存在している。ベルリンでは新旧の建造物が共存する魅力的な街でもあるが、やはり建物自体の寿命には敵わない。私自身、移民としてベルリンで過ごした1年間のあいだにも、老朽化したアパートや建造物が惜しまれながらも取り壊されていく瞬間を何度も目の当たりにした。

最近だと、ミッテ地区にあった「タへレス」というアートハウス(スクワット)が跡形もなく無くなってしまった。ベルリンアートのシンボルだったタへレスは、2012年の閉鎖以降、建物こそ存在を残していたが、私がこの街へやってきた2019年の夏、その面影はあっという間に消えてしまった。

こうして次々と現代に均されていく中、西ベルリンの小高い山の上にあるトイフェルスベルク元スパイ塔跡地にて、ベルリンで活動するダシャ・ラッシュがレコーディング実験を行うということで現地へ向かった。

【MOLS.tv】Sounds to scape at Teufelsberg Spy Tower
photo by.DOTS Gallery Webpage

「悪魔の山」と呼ばれるトイフェルスベルクは、第二次世界大戦の爆撃で廃墟になったベルリンの瓦礫を集め、それらを積み上げてつくられた人工的な山。冷戦時代にアメリカ軍とイギリス軍が、東ドイツ、さらにはソ連の無線傍受に適しているとして、西側諸国が諜報目的でレーダーを設置した。かつては盗聴用として建設されたスパイ基地だが、ベルリンのアーティストや音楽関係者たちはその特徴的なドーム型の空間に目をつけ、新たなサウンドスペースへと変貌させたのだ。

8月16日、この日のレコーディング実験は、出演者及び関係者からのダイレクトメッセージで招待されたものだけが参加出来るというパーソナルなイベントだった。駅から会場までは徒歩で約30分、西と東が資本主義と社会主義によって分断されていた当時を思わせる、その異様なドーム型の物体を目指して山の頂上へと向かっていった。

このイベントはドッツ・ギャラリーが主催しており、不定期で建物全体を使ったサウンドパフォーマンスやインスタレーションを行なっている。

上部にあるドームは、いわば自然な放物型のリバーブチャンバーとして用いられ、何百メートルもの音響ケーブルを使用し本館1階にあるドッツ・ギャラリーの録音スペースからドームへと音楽が送られる。ドーム内へ送られた音響信号はL/Rのスピーカーで再生され、その反響音が2つのマイクで録音され1階にある録音スペースへと返されるという仕組みになっている。

光の屈折と同様、音に関しても広い空間と狭い空間では音の鳴り方が異なり、空間に存在するオブジェクトの材質などによっても変化してくる。今回着目する点は、そのオブジェクト(元スパイ塔跡地)とドームを使った反響音(リバーブ)である。ループした同じ音源にも、リバーブを加えることによって音全体の肉付きが良くなり、艶っぽい印象を与えてくれる。アンビエントやエクスペリメンタルミュージックのライブパフォーマンスを専門とするサウンドアーティストたちにとって、音響空間表現を熟知することは非常に重要なことなのだ。

写真ではわかりにくいが、大きく開いた扉の奥にはドッツ・ギャラリーの録音スペースがあり、ダシャ・ラッシュとオペラ歌手のサロミエがパフォーマンスし、観客は目の前に設置されたオリジナルスピーカーから流れる幻想的な音響空間を楽しむ。

正直かなりマニアックな実験パフォーマンスだと思ったが、観客の中にはアーティストや音楽業界で活躍する人たちの姿が多く見えた。

会場で使用される機材はほとんどが自作のもので、写真のようなカートと一体となった移動式スピーカーが左右に2台設置されていて、左側のスピーカーからは録音スペースからリアルタイムで送られる音が流れ、右側のスピーカーからはドーム内へ送られ反響して返ってきた音が流れる仕組みになっている。

Dasha Rush, photo by. MOLS magazine

この日のメインアクトであったダシャは、自身のレーベル「フルパンダ・レコード」を主宰するDJ/プロデューサーであり、アーティストやダンサーと共に劇場や映画館などでインスタレーションを開くなど、より実験的で芸術的なサウンドアーティストとしても活動している。

今年はコロナウイルスの影響もあり、世界各国で音楽フェスや大きな野外イベントは軒並み中止。ベルリン市内では、未だライブハウスやクラブハウスの営業規制が厳しい状況にある中、常に音楽とその他芸術表現の融合を研究し続けるベルリンのアーティストたちの強い意志と実行力を目の当たりにした。ベルリンで活動するアーティストたちは、既にニューノーマルな時代へ突入していくこと受け入れている。寧ろ、コロナウイルスの猛威について未だ議論を交わしている人は少なく、自然環境問題や貧困国の食料不安など、更に大きなテーマについて真剣に考え訴えかけるような動きを見せているように感じる。

NASAは時々、宇宙からやってくる電波の振動を音に変換したデータを公開しており、音楽家ブライアン・イーノは天体物理学者と組んで星の内部で発生した音で宇宙オーケストラを作ろうとしている。これからの時代は、ただ流行りを追うものではなく、私たちの日々の暮らしに関係する言葉や雑音、自然音に寄り添うようなサウンドが求められるだろう。


Dasha Rush

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Alexandra Pyatkova

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