ノイズバンド・夜光虫がUKのインディペンデントカセットレーベル”INDUSTRIAL COAST”より1st albumをリリース

ベルリン在住の日本人アーティスト3人によるノイズバンド・夜光虫-noctiluca-の1stアルバム「Noctiluca - Prelude」が10月30日(金)にリリースされた。 今回、イギリスのノイズシーンで最も注目を集めるインディペンデントカセットレーベル「INDUSTRIAL COAST」からのフィジカルリリースされたということで、”夜光虫”というなんとも怪奇でおどろおどろしい名前が、ドイツから海を渡りコアな音楽ファンへと一斉に広まることとなった。 メンバーは、ベルリンアンダーグラウンドで活躍するピアニストRieko Okuda、サウンドアーティストMakoto Sakamoto、ギタリストRyusui Tatsumiのトリオで結成され、それぞれ実験音楽家でもある彼らは、ノイズ音楽界のディープゾーンに野盗の如く現れ、聴衆を怒号の渦で喰い尽くしてしまう程アバンギャルドな世界観を創り上げている。 https://youtu.be/3SKhF_ZnM3k 夜光虫 Noctiluca - Prelude (2020 debut) そんな全員異端児のハードコアバンド夜光虫のデビュー&リリースに伴い、今回MOLSがショートムービーを制作。激しいフィードバックに切り裂くような轟音、その場で瞬間的に生み出されるノイズ芸術を30秒間に凝縮し、90年代のVシネマもしくは日本カルト映画のような映像が出来上がった。 最後に、夜光虫の音源について一言「カセットテープを最後まで聴いてみろ」。 フィジカルはいいよ、カセットテープデッキをお持ちの人は是非。カセットテープでの購入は、INDUSTRIAL COAST及び、夜光虫のbandcampページからお問い合わせをお願いいたします。 Released by Industrial coast UK Order the Cassette Tape at INDUSTRIAL COAST offical shop https://industrialcoast.bigcartel.com... bandcamp https://industrialcoast.bandcamp.com/... "Noctiluca - Prelude" A side - 20:09 B side - 20:09 All tracks are improvised & recorded in [...]

没入する:アウクスブルクの実験音楽フェス “re:flexions sound-art festival”

ベルリンで毎年行われる実験音楽の祭典”Berlin Atonal”は、今年の開催を見送りに。私は、2019年に初めて参加したAtonalの写真を見返しながら、大きなダンスフロアで、爆音のなか思いっきり踊り明かせる日が来ることを待ちわびるしかなかった。 ”ニューノーマルな時代”と呼ばれることへの抵抗も無くなり、ベルリンでは徐々にではあるが、クラブイベントやライブパフォーマンスの開催も増え始めている。しかし、ベルリンで主流となっているFacebookページからのパブリッシュや招待は、警察の取締りが厳しく、昨今は、ダイレクトメッセージや、当日まで開催場所を公開しないアンダーグラウンドなイベント内容が目立ってきた。 やはり驚くのは、ベルリンで活動するアーティストたちのカルチャーに対する熱意と実行力である。そしてその中でも、アートの根を絶やさぬよう、今最も活発的で根強いジャンルが、エクスペリメンタル・ミュージックやサウンドインスタレーションである。 ベルリンといえばテクノの印象が強いが、テクノ・ミュージシャンがエクスペリメンタル・アーティストへと転向することは珍しくない。実験音楽へと没入するアーティストは、テクノ、パンク、メタル、ノイズ、時にクラシックと幅広く、無限の可能性を秘めた精神音楽のような気がする。 8月に入った頃、ヴァイオリニストのHoshiko Yamaneさんから、「re:flexions sound-art festival 2020」のコラボレーションアルバム「r/e」を頂いた。 re:flexions sound-art festival Official Webpage 「re:flexions sound-art festival」は、ベルリンから600km離れた街・アウクスブルクにて、2017年から毎年開催されている実験音楽の祭典で、このアルバムは、元々フェスティバルに招待されたアーティストたちによるリモートセッションで収録されたコンセプチュアル且つスペシャルな作品。今年は7月4日に開催される予定だったが、コロナウイルスによる被害拡大を懸念し、ラインナップを一部変更して開催されたそう。 参加アーティストは、Bu.d.d.A.(Sascha Stadlmeier&Chris Sigdell), Fabio Fabbri, Hoshiko Yamane, Agente Costura, Boban Ristevski, Occupied Head, Calineczka, Gintas K, Wilfried Hanrath, KOMPRIPIOTR, Lee Enfield, Waterflower,N​(​91), deepの13組。 ドイツで活動するアーティストたちに規則性はない。時とともに流れ、進化し続ける姿勢であることが、表現の幅を広げることに必要不可欠なのだ。 実験音楽というと日本では未だ馴染みの少ない音楽ジャンルではあるが、なんとなく実験音楽というジャンルが時代に追いつき始めたように感じる。現在、アルバムでの販売は終了している状態だが、bandcampで視聴可能となっているので、気になった方は是非聴いてみてほしい。 re:flexions sound-art festival Official Webpage

Dasha Rushが捉える音響空間とサウンドの関係性 – トイフェルスベルク元スパイ塔跡地

words : ARI MATSUOKA ベルリンの壁が崩壊した1989年以降、物凄い早さで急成長を遂げるこの街には、今もなお未開発の廃墟が沢山存在している。ベルリンでは新旧の建造物が共存する魅力的な街でもあるが、やはり建物自体の寿命には敵わない。私自身、移民としてベルリンで過ごした1年間のあいだにも、老朽化したアパートや建造物が惜しまれながらも取り壊されていく瞬間を何度も目の当たりにした。 最近だと、ミッテ地区にあった「タへレス」というアートハウス(スクワット)が跡形もなく無くなってしまった。ベルリンアートのシンボルだったタへレスは、2012年の閉鎖以降、建物こそ存在を残していたが、私がこの街へやってきた2019年の夏、その面影はあっという間に消えてしまった。 こうして次々と現代に均されていく中、西ベルリンの小高い山の上にあるトイフェルスベルク元スパイ塔跡地にて、ベルリンで活動するダシャ・ラッシュがレコーディング実験を行うということで現地へ向かった。 https://youtu.be/m9UZDxR8Sgo 【MOLS.tv】Sounds to scape at Teufelsberg Spy Tower photo by.DOTS Gallery Webpage 「悪魔の山」と呼ばれるトイフェルスベルクは、第二次世界大戦の爆撃で廃墟になったベルリンの瓦礫を集め、それらを積み上げてつくられた人工的な山。冷戦時代にアメリカ軍とイギリス軍が、東ドイツ、さらにはソ連の無線傍受に適しているとして、西側諸国が諜報目的でレーダーを設置した。かつては盗聴用として建設されたスパイ基地だが、ベルリンのアーティストや音楽関係者たちはその特徴的なドーム型の空間に目をつけ、新たなサウンドスペースへと変貌させたのだ。 8月16日、この日のレコーディング実験は、出演者及び関係者からのダイレクトメッセージで招待されたものだけが参加出来るというパーソナルなイベントだった。駅から会場までは徒歩で約30分、西と東が資本主義と社会主義によって分断されていた当時を思わせる、その異様なドーム型の物体を目指して山の頂上へと向かっていった。 このイベントはドッツ・ギャラリーが主催しており、不定期で建物全体を使ったサウンドパフォーマンスやインスタレーションを行なっている。 上部にあるドームは、いわば自然な放物型のリバーブチャンバーとして用いられ、何百メートルもの音響ケーブルを使用し本館1階にあるドッツ・ギャラリーの録音スペースからドームへと音楽が送られる。ドーム内へ送られた音響信号はL/Rのスピーカーで再生され、その反響音が2つのマイクで録音され1階にある録音スペースへと返されるという仕組みになっている。 光の屈折と同様、音に関しても広い空間と狭い空間では音の鳴り方が異なり、空間に存在するオブジェクトの材質などによっても変化してくる。今回着目する点は、そのオブジェクト(元スパイ塔跡地)とドームを使った反響音(リバーブ)である。ループした同じ音源にも、リバーブを加えることによって音全体の肉付きが良くなり、艶っぽい印象を与えてくれる。アンビエントやエクスペリメンタルミュージックのライブパフォーマンスを専門とするサウンドアーティストたちにとって、音響空間表現を熟知することは非常に重要なことなのだ。 写真ではわかりにくいが、大きく開いた扉の奥にはドッツ・ギャラリーの録音スペースがあり、ダシャ・ラッシュとオペラ歌手のサロミエがパフォーマンスし、観客は目の前に設置されたオリジナルスピーカーから流れる幻想的な音響空間を楽しむ。 正直かなりマニアックな実験パフォーマンスだと思ったが、観客の中にはアーティストや音楽業界で活躍する人たちの姿が多く見えた。 会場で使用される機材はほとんどが自作のもので、写真のようなカートと一体となった移動式スピーカーが左右に2台設置されていて、左側のスピーカーからは録音スペースからリアルタイムで送られる音が流れ、右側のスピーカーからはドーム内へ送られ反響して返ってきた音が流れる仕組みになっている。 Dasha Rush, photo by. MOLS magazine この日のメインアクトであったダシャは、自身のレーベル「フルパンダ・レコード」を主宰するDJ/プロデューサーであり、アーティストやダンサーと共に劇場や映画館などでインスタレーションを開くなど、より実験的で芸術的なサウンドアーティストとしても活動している。 今年はコロナウイルスの影響もあり、世界各国で音楽フェスや大きな野外イベントは軒並み中止。ベルリン市内では、未だライブハウスやクラブハウスの営業規制が厳しい状況にある中、常に音楽とその他芸術表現の融合を研究し続けるベルリンのアーティストたちの強い意志と実行力を目の当たりにした。ベルリンで活動するアーティストたちは、既にニューノーマルな時代へ突入していくこと受け入れている。寧ろ、コロナウイルスの猛威について未だ議論を交わしている人は少なく、自然環境問題や貧困国の食料不安など、更に大きなテーマについて真剣に考え訴えかけるような動きを見せているように感じる。 NASAは時々、宇宙からやってくる電波の振動を音に変換したデータを公開しており、音楽家ブライアン・イーノは天体物理学者と組んで星の内部で発生した音で宇宙オーケストラを作ろうとしている。これからの時代は、ただ流行りを追うものではなく、私たちの日々の暮らしに関係する言葉や雑音、自然音に寄り添うようなサウンドが求められるだろう。 Dasha Rush Official Webpage Instagram Alexandra Pyatkova YouTube DOTS Gallery Official Webpage Instagram

人種問題やウイルスによる国境封鎖、ニューヨークで活動する音楽プロデューサーFurozhに独占インタビュー

Interview: ARI MATSUOKA Date of interview: 14 July, 2020 アメリカ・ニューヨークは世界で最もコロナウイルスのパンデミックに苦しんでいる。誰もが2メートルの距離を保ちながら立ち話しをするニューノーマルな時代へと変容し、家族や恋人、親しい友人とも気軽に会うことが許されなくなった。そんな中、ジョージ・フロイドの殺害から始まったBLM運動は未だ活発に行われており、私たち人間は社会の断片化ではなく更なる連帯が必要な状況だといえる。 ハウス、アンビエント、ダウンテンポ、トラップ。ニューヨーク在住 @offthescene_ のプロデューサー兼創設者である Furozh は、音楽スタイルを柔軟に変更してDJミックスのように聴かせることが出来るトラックメーカーだ。 分裂と格差がコロナウイルスの噴火によって明らかにされたニューヨーク。 市の現状について困難な状況の中、彼にメールでインタビューをした。 Furozh https://www.youtube.com/watch?v=5amhIqaZSJM&list=OLAK5uy_lP1RLz2h2ILFXVo2Xx04P-eZLI6PQx9SI&index=1 Furozh Album "Set Me Free" Q1 出身地を教えてください。  ニューヨーク・バーノン出身。 Q2 ニューヨークでは最近、3ヶ月続いたコロナウイルスによるロックダウンが解除されました(6月20日のインタビュー時)。人種差別デモの最中で、ニューヨークの街の様子や住んでいる人々の様子はどうですか?また、"curfew"制度とはなんですか? 多くの住民が、人種差別の問題よりも、コロナパンデミックによる生活への不安の方が気持ちも大きかったと思う。その中で起きた人種差別デモ(以下BLM運動)に参加する人々の中には、アメリカ政府に対する不満や、情勢への不安をただ発散するためだけに暴動を起こす者も多くいた気がするな。 ニューヨークでBLM運動が起きる以前やその最中も、罪のない黒人が殺されているという事実は変わらない。そして、デモが過激化することによって、アメリカに住む黒人たちが危険にさらされているということも事実なんだ。 "curfew(カーフュー)"とは、一般市民に対して公権力の行使として例外的な場合を除き夜間の外出を禁止するという意味で、ニューヨーク各地で実行されたもの。住民の安全を確保するためのもだと政府や警察は言っていたけど、実際のところは、僕たちニューヨークで暮らす市民たちの発言や正義を探し求める行動を抑制しているようにも感じたよ。 Furozh Interview “SAY NO TO RACISM WE ARE ALL HUMAN” photo by.Furozh Q3 昼間のデモに参加している人たちと、夜間のデモに参加している人たちでは活動内容や人種に違いは見られますか?  昼間に行われるデモは家族連れや年配の方など、平和的で落ち着きがあり、それこそ”政治運動”と呼べるものだった。ただ、実際に見られている人数や参加している人数の規模は夜間の方が多くて、その大多数は若者たちによってデモが行われていたよ。人々の通勤時間や外出時間によって、年齢や人種は違っているように見えたかな。 Q4 あなたがニューヨークに住んでいて感じる差別はありますか?人種に問わず、セクシャル、宗教、世界観問いません。 勿論! Furozh Interview “SAY NO TO [...]

Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第二弾:後編(インタビュー後日談/考察)

5月29日金曜日、ベルリン在住アーティストの菅原圭輔による11分間のアート映像作品「Raum」のオンライン上映会が行われ、本日、彼のウェブサイトより一般公開された。 【外部リンク】Keisuke Sugawara Web 【外部リンク】Keisuke Sugawara Webpage 前回、第一弾として「Raum」について幾つかテーマを抜粋したプロローグを執筆させてもらった。 【外部リンク】Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第一弾:前編(プロローグ) 今回第二弾ということで、本作上映後、特典映像として携わった時のアフタートーク全文と、本編についてのレビュー&考察について話していきたい。 まずは、菅原圭輔とのアフタートークの様子を紹介。 Raum in Conversation Keisuke Sugawara × MOLS ー まず、「Raum」という名前の由来とは? Keisuke : 「Raum」はドイツ語で「部屋(room)」という意味で、閉ざされた空間やスペースを人の心の中とイメージして制作したんだけど、なんかその限られた空間の中にいる一人の人物にフォーカスをあてたくて。だからこの題材でフィルムを制作しようとした時に、自然とこの名前が浮かんだんだよね。英語でも日本語でもなく、ドイツ語の響きや表現がぴったりだと思ったからかな。 ー Keisukeが作品を作るうえで、どのような場面からインスピレーションを受け、それをどのようにして作品に落とし込む? Keisuke : 割と自分の体験に基づいて印象に残っている風景や経験が沢山自分の中に残っていて、一つの作品を作るときに、その引き出しの中から摘んでイマジネーションを膨らましていったり、その物事から派生する物語と結びつけたりするかな。 例えば今回の作品でいうと、真っ白な部屋という風景と、一人の女性が椅子に座っている風景を頭の中でイメージを結びつけたりして、時にその情景に近い記憶をコラージュしながら作り上げていったな。ぼんやりある風景に対して、なんかこの小説の雰囲気が僕が見たあの風景と似てるとか、この音楽が頭の中にあるイメージにぴったりとはまるとか。元は多分その輪郭がぼやけたイメージや感情とかからインスピレーションを膨らましているね。 ー 本作のキャスティングについて、神嶋 里花さんを主演として迎えた理由は?また、普段作品を作るうえで人選に拘りはある? 今回に関してで言えば、作品の登場人物に対して既に自分の中でイメージがあって、表情や話し方、彼女自身が持つオーラが作風とマッチした、ということが一番の決めてだったよ。彼女からは、少しあどけなさも感じられつつ大人の女性のような魅力も感じられて、理想通りの女優さんが見つかったと思った。 なんか、僕は人の”目”が凄い好きで、ちょっ話が逸れると、ベルリン・アレキサンダープラッツ駅付近にある「ALEXA」に、眼球の写真を撮ってくれる場所があるのは知ってる? ー そんなサービスがあるの?! それは個人的にも知りたい... そうそう、本当に眼球だけを撮影するんだよ。しかもA1サイズくらいに引き伸ばして印刷してくれるらしい。それが凄く気になっててね。自分の目の写真が部屋に飾られているのは少し気持ち悪いなと思うけど(笑)。 人の目には沢山の情報があると思っていて人種によっても眼の色は様々。黒や茶色、それから青や緑。ここベルリンに住んでいると、様々な人種の人たちが暮らしているから、特徴のある目を見るとスーッと引き込まれるというか。今作の撮影の中で特に面白かったのは、主演の里花さんに目を閉じてもらって、開く瞬間に黒眼の部分が一瞬ピントを合わせる為に開くんだけど、その瞬間って肉眼ではなかなか確認できないし、カメラ越しでハッキリと見えた時は凄く引き込まれたな。 ー 映像作品を作るなかで「音楽」は密接な関係にあると思うけど、今回楽曲として選んだMakoto Sakamotoさんの「Yoin」を選んだ理由は? 2019年8月にMakoto Sakamotoさんの「Reflection」というアルバムがリリースされたという連絡があって、聴いてみたのがキッカケだったかな。全体を通して自分の好きなアンビエントでどこかドロッとした印象を感じて、アルバムを通して大好きで。その時から「Yoin」というタイトルが頭に残っていて、ピアノの音が反復されていく様や、序盤は静かに始まって、空間に溶け込んでいって、7分間の楽曲だけどその後もずーっとその場の空間を支配するというか。展開の少ないメロディーだけど、今作と凄くマッチするなと思えるような、運命的な出会いだったんだよね。 この作品には「ゆっくり、だけど確実にー」という一つのテーマがあって、作品説明にも載せてるんだけど、視覚的には淡々としなながらも、得体の知れない何かに動かされるような不穏さや違和感のようなものを感じたり、その”不穏さ”がこの楽曲と重なる部分を感じたかな。個人的には映像とあてはめた時にどちらも潰しあっていなくて、映像が楽曲のイメージを壊すことも無ければ、その逆も無く、絶妙なバランスでリンク出来たかなとは、編集を終えて通しで見た時にそう思ったな。あとは、単純にこの曲が好きだからかな(笑)。 ー 最後に、今後も映像作品を作っていきたい? 映像は今後も撮っていきたいなと思ってる。やっぱり舞台って空間が決まっているし、シーンを切り替えたくても「暗転」って言って照明を暗くして展開をもたせるくらいしか方法がないんだけど、映像って急に違う場面に飛んだり、時空を自由に操れるから面白いなと思うかな。 今後映像作品を作っていくという工程は、今まで自分がやってきた活動と離れていないなと感じるから続けていきたいなと思うし、あまりフィルムという部分だけに拘らず、映像作品は撮りたいな。もっと日常に寄り添った作品や、台本があって、今作よりも長いストーリーも撮っていきたい。その前に、ベルリンの街並みや風景を記録していきたいな。そういうミニアルなものは定期的にシリーズ化していって、「Raum」のようなストーリーのある作品も今後はチャレンジしていきたいと思っているよ。 ここからは、筆者による「Raum」のレビューと個人的な考察を話していきたい。 まず、全編を通して非常にシンプルでありながら、なぜ真っ白な部屋に一人女性が椅子に腰をかけているのか、一体誰に話しかけているのか、全貌が全く掴めないまま物語は進んでいく。 冒頭、彼女が話す会話の中で分かったことは、季節である。 [...]

Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第一弾:前編(プロローグ)

4月、ベルリンで活動するアーティスト・菅原圭輔が初の演出・監督を勤めたショートフィルム「Raum」がようやく完成したと、本人から連絡があった。 1月、コンテンポラリーダンスを中心としたジャパンツアーを控えていた彼が、もう一つの大きなプロジェクトとして新たにショートフィルムを制作するという話は、2019年の時点から聞いていた。 Christina Dyekjærと一緒に主催する ”mellem to” プロジェクトで彼と出会って以降、彼の作品からは「生きるということ」そのものを問い、何度も反復して投げかけてくるほど強烈なメッセージを感じていた。何故なら彼自身、その意味の原型について深く知り尽くしていて、また、多くの人がその問いについてあまりに悲観的すぎることも知っているのであろう。 公開まであと三日、今回は二部構成にわたって、彼が手掛けた「Raum」について紹介・レビューしていきたい。第一弾は、「白い部屋」と主人公の「心理」にまつわるプロローグについて。 「Raum」という名前はドイツ語で「部屋」を意味し、作中に出てくる真っ白な部屋に、女性が一人椅子に腰掛けているシーンから始まる。彼女の身に纏うワンピースのセンスと対比して、瞳はどこかあどけなく、ちょうど少女と大人の間(はざま)にいるように感じた。 シンプルで飾り気のない退屈な部屋に腰掛ける彼女の表情はどこか不自然で、会話の中に出てくる街中の風景や人々に対してどこか冷めた印象だった。 作中、彼女は、淡々と目の前にいる”誰か”に最近あった出来事を話す。内容は至ってなんでもない日常のようにも感じるが、真っ白な部屋が、まるで彼女の世界から色というものを消し去ってしまったかのように見えた。 もし、世界から色が消えてしまったら。色の持つ感情への作用は強い。 朝、目が覚めた時に見る日差しが外で見るよりもずっと柔らかい琥珀色だということや、長い冬を終えたあとの新緑が、想像していたよりもうんとみずみずしい萌木色であることを教えてくれる。色というのは、ただ単に物質の特長を捉えるだけでなく、温度や触感までもイマジネーションさせる。 色を無くしてしまった時、私たちはただ、背後からゆっくりと忍び寄るなにかに怯え、昨日と今日を往来するだけの日々を過ごしてしまうのかもしれない。そう、彼女が話す風景の中には色彩が感じられなかった。 彼の舞台作品「mellem to」に同じく、今回の作品の登場人物に共通している心理課題はリフレクションにある。 リフレクションとは、簡単に言えば、ある経験をピックアップし客観的に経験を振り返ることを意味している。例えば、過去の失敗を振り返るときに、自分を責めたり他人のせいにしたりしていると、適切な学びを得ることができないように、冷静に客観性を持って振り返ってこそ、成長につなげることができる。リフレクションにおいて最も大切なことは、過去からの教訓を得て、次なる実践に活かすことだ。 ただ、作中の彼女にはそれがまだ明確に見えていないように思える。命(生)が有限であるという事実を知っていながらも、決して自身の思惑になぞらない出来事に、私たちは時として困惑し、無意識に思考と言動に矛盾した行動を取ることがあるのだ。 中盤に差し掛かり、だんだんと彼女の言動に違和感を感じ始めたとき、彼女が”あなた”と呼ぶ、花瓶を持った男性が登場する。彼女の思考と言動のちぐはぐが繊細で緊迫した空気を作り出し、事態はゆっくりと、でも着実に忍び寄ってくるー 今作で最も印象に残ったシーンは、クローズアップされた女性の瞳だった。 コンテンポラリーダンスを中心に劇場をメーンとしていた彼にとって、これまでは舞台全体の構図を熟知し、演者の躍動と観客のリアクションでその場のグルーヴ感を創り上げることが重要になっていたものが、今回は決められた画角の中でどのようにして躍動を伝えればいいのかを考えるのが楽しかったと言う。 主人公の言動とは裏腹に、うつろぐ眼や落ち着きのない手元をカットに取り入れることによって、彼女の奥深い過去と観客の深層心理を抉る不穏な空気感がそこには生まれていた。 また、今作で重要なエッセンスとなった音楽について、サウンドアーティスト・坂本真の楽曲「Yoin」が、作品と絶妙にリンクしていた。ショートフィルムの楽曲の多くは、風景の変化や物語の進行に合わせて曲調が変化することで躍動を与えるが、この楽曲は、目の前で起こる容赦ない出来事を抑揚ではなく僅かに針が振れる程度で変化をもたらしている。映像と音楽は、非常に重要で密接な関係にあるということを改めて認識させられた瞬間だった。「Yoin」が収録されている彼のアルバム「Reflection」については、以前考察レビューをアップしているので、そちらも是非チェックしてほしい。 【外部リンク】MAKOTO SAKAMOTO - Reflection 考察 【外部リンク】Keisuke Sugawara Website(画像をクリック) 「余白と”余韻”に人は何を想うのか。」このメッセージは、彼が創り出す全ての作品において、永遠のテーマでもあるように思う。 全編については、2日後の5月29日(金)に公開される彼のホームページから是非チェックしてほしい。 第二弾は「Raum」公開後に更新予定!! 菅原圭輔が初の演出・監督を勤めた本作は、キャストに神嶋里花、音楽に Makoto Sakamotoをむかえ、ある女性のモノローグ、その目線の先に見ているものに焦点を当てた11分間の短編アート作品である。 余白と”余韻”に人は何を想うのか。 *本ストリーミングは本編と特典映像を合わせた限定公開。 ------------------------------------------ タイトル:Raumキャスト:Rika Kashima http://www.anore.co.jp/rika_kashima/ Keisuke Sugawara https://www.keisuke-sugawara.com/ スタッフ:演出・監督 - Keisuke Sugawara助監督・編集 - Miho Yajima撮影 - 平野 [...]