documentary and culture magazine

Category: Blog – interview


  • MAKOTO SAKAMOTOインタビュー: 不規則な世界に求めるもの

    2021年1月2日、ドイツ・ベルリン在住のサウンドアーティスト・MAKOTO SAKAMOTOが2曲入りシングル「VELVET PROOF」をデジタルリリースした。 音そのものによって圧倒的な個性を際立たせる彼の最新作は、”未完成の美しさとダークな世界観が放つ異形のアンビエント・サウンド”という言葉が相応しい。長年に渡るプロジェクトを経て作品が世に放たれるまで、作者がどのようなプロセスでどのような想いを込めて制作していたのか、普段の私たちは知ることもない。 今回はインプロヴィゼーションアーティストとして注目される彼について、新作「VELVET PROOF」にまつわる技術や制作方法から、自身のキャリアを総括するような音楽論、普段意識していることなど、合計1万字にも及ぶロングインタビューをご紹介したいと思います。 新作「VELVET PROOF」について、表題曲の「Velvet Proof」は実験的な音像を作るために特殊な手法で制作されたと聞きましたが、その方法を聞かせてください。 この曲は、スピーカーからの出音でモニタリングしながらボーカルや周囲の音をコンデンサーマイク一本で録音し、シンセサイザーの音は有線でミキサーへ送り、それらをその場でミックスしてDATへ一発録りしています。シンセサイザーを弾くのも、ボーカルを録るのも、ミックスダウンも全部リアルタイムで録音しました。 マイクはスピーカーから真っ直ぐ音が届く場所に設置して、その正面からボーカルに歌ってもらいました。単一志向性のマイクなので、直接外周音は入って来ないでわざと軽くフィードバックする状態をつくっています。モニタースピーカーからはシンセサイザーの音とボーカルの音声が流れているので、完全にライブコンサートのレコーディング環境と同じ手法です。ボーカルが中低域から高域部分に位置するので、その他の全ての音を低域に集めてミキシングしています。なので、ボーカルより上で音が鳴ることはありません。 「Velvet Proof」は、ヘッドホンで聴いたときとスピーカーで鳴らしたとき、環境によって違った音楽に聴こえるような気がします。Makotoさんがおすすめする試聴環境、もしくはシチュエーションはありますか。 重低域がしっかりと鳴らせるヘッドホンもしくはイヤホンで聴くと、この曲の特徴でもある低域のグルーヴ感が味わえます。特にワイヤレスイヤホンBOSE SoundSportFreeで聴くことで、MASARAの身体の中に入り込み、彼女の心臓音とともに神秘的な声を楽しむ事ができます。 確かにおすすめのイヤホンで聴くと、重低域が自分の胸の位置でどくどくと脈を打つ感覚にとても興奮しました。 今回マスタリングを依頼した京都在住のエンジニア・Gen Seiichiさんとは、スピーカーから出た時にどんな鳴らし方をするかというのを、じっくりと打ち合わせして決定しました。根本的にマスタリングはどんな環境で聴いても同じように聴こえるのが定義ですが、今回は一つ一つの環境が違う場所でも機能するオリジナルな音像とマスタリングに仕上げてくれました。 BOSE製品は必要以上に中域から高域が出てこないので、マスタリングする前のミックスダウンが終わった状態で、リファレンスモニターとして聴くのに重宝しています。一般的には中域から高域が綺麗に鳴らしきれているものが”いい音”だと言われてはいますが、BOSEは良い意味で煌びやかな部分が無く、自分で音像を作ろうという思考にさせられるんです。BOSEのスピーカーでちょうどいい感じに出るくらいに高域を持ち上げた方が、そのあと他のスピーカーで聴いた時に、低音を出しすぎずちょうどいいバランスに仕上げられる気がします。 二曲目の「White Loop」はテープループを用いた手法で録音されたと聞きましたが、それはどういったものですか? 通常のカセットテープを自分で解体して、全長が5秒ほどしか録音できないテープを自作します。カセットテープは、一般的に前に録音されていた音源を消しながら上書き録音する仕組みだということはご存じかと思いますが、その消去するイレイザーへッドにアルミホイルを挟んでレコーディングすることで、オーバーレコーディングが可能になります。この方法でレコーディングすると、幾つもの音のレイヤーが重なり心地よいアンビエンスが生まれ、再生した時に同じ音がぐるぐる回り続けるという仕組みになります。 この曲もその場でピアノを即興でレコーディングし、その音源を流しながら即興でボーカルに歌ってもらいました。そして、ミックスダウンもすべてDATに直接一発録りしたものです。二曲とも、リアルタイムに演奏、ミックスダウン、レコーディングまで全て同時に行われています。 このカセットテープループの手法は、友人のサシャ(Sasha)から教えてもらいました。彼はベルリンでワークショップを開き、テープループを使ったアンビエントミュージックをYouTubeで公開しています。 彼のYouTuubeチャンネルを拝見しましたが、非常にポップでキャッチーなサムネイルがいくつも目に止まりました。自作テープのワークショップは、ぜひ私も体験してみたいです!では、今回”UNKNOWN”として初めて女性ボーカル・MASARAを起用したということでしたが、彼女とはどのようにしてコラボレーションに至りましたか? 彼女はベルリン芸術大学に通う若いアーティストで、エクスペリメンタルミュージックに興味があると言いました。当時LOOP HOLEというライブハウスまで僕のパフォーマンスを観にきてくれた時に、スタジオでセッションをする日取りを決め、スタジオに招き、その時に録音しました。「Velvet Proof」は、初めてセッションした時に録音されたものです。 すごい…!出会って間もなくセッションを実行したということですね。 そうですね(笑)。二回目に会った時に「White Loop」を作りました。一回目は初期衝動と緊張感を収め、二回目は初回よりもお互いにリラックスした状態で制作しました。 個人で音楽を作るときと、誰かとコラボレーションをするときとでそれぞれ大事にしていることはありますか? 個人で音楽を作る時は、なるべく型にはまらないようにするというか、過去に作ったものと似たものを作らないよう心掛けています。僕はフィーリングを重要視します。タイミングであったり、作る環境であったり、自身の精神状態を出来るだけ頭でイメージするものに近づけるというか、イメージ化したものを実行できる環境を作ります。 他人と何かをする時は、イメージや到達点に対する拘りよりもその瞬間に生まれるフィーリングを大切にしていて、自分は拘りすぎず、コラボレーションするアーティストの意見を優先することが多いです。相手と自分を掛け合わせた時に何が出来るかというところを重視しているような気がします。一人で取り組んでいる時はどれだけ我が出るか、いわば、どれだけ拘ることが出来るかだと思います。 一発録音といえど、いつもコンセプトを考えてから制作していますか? その時々ですね。人とやるときはある程度イメージを固めて、メロディやコードは決めずにやることの方が多いです。それを決めてしまうとインプロヴィゼーションでは無くなることが多いし、実験的では無くなるので。僕は人と人とが生み出すケミストリーをいつも楽しんでいます。 ノイズ音楽の即興レコーディングの場合は、まず好きなつまみを触ってその音を聴きながら和音にしてみようとか、いくつかのシンセサイザーを掛け合わせてハーモニーを作ってみようとか、出た音をシンセサイジングしながらイメージを構築していく事もあります。そのうち、今度は自分の中に映像が飛び込んできて「じゃあ今やっている音は第一章で、次に飛び込んできた映像を第二章に持っていこう」と展開を続けて録音していくことが多いです。それがそのままライブパフォーマンスへと繋がっています。 即興音楽について、スタジオで一人で録音する場合と、人前に立ってライブパフォーマンスする場合では、意識の方向性に違いや差はありますか? 違いや差はあると思います。本当は駄目だと思うけど。でも、今は人に見られていることを忘れてしまうほどプレイに没入しているので、その差は無くなってきたように感じます。 僕はスピーカーの出音でバランスを意識しながら音を出すことが多いので、スタジオだと自分が聴いて自分が良いと思った音作りをするのが基本なのですが、人前でパフォーマンスをする時は、ライブハウスの環境や人の密度であったり、周囲の環境音を聴きながら音作りすることを心がけています。 僕は現場でも出音で確認することが多く、その時小さな音は聴こえていないので、スタジオワークのように細かい部分にまで気が行き届いていないことがあります。ただ、ライブハウスには演者と観客とスタッフがいて、一人一人が物質として存在感やオーラも放っていて、そういったものが全部混ざっているということが僕にとってのライブのような気がします。 パフォーマンス後、自分がライブで感じていた音とは全く違うようなものが録れていたりすることがあるんです。その理由はきっと、その場所のバイブスであったり、人からもらう緊張感や緊迫感が混じり合って、自分が想定できない意識の外側で起こっているものが録音されているんだと思っています。 普段の生活が気になりますが、毎日の習慣や意識していることはありますか? どちらかといえば、不規則な動きの方を意識していると思います。 ルーティーンと呼ばれるもので言えるなら、毎朝20分間の簡単な筋力トレーニングや体力作りは欠かさないように心がけています。走っている時は考えていることを整理したり、リフレッシュしたり、悩み事や答えの出ていないものを走っている間に解決させています。ジョギングが終わったら次のステップに進めるように、走りながらクリーンアップするというか。走っている時は基本スマートフォンも何も持たないので、思いついたアイデアは忘れない様にUSB型のボイスメモに録音しています。 あと、いつも何か集中するときはスマートフォンの電源を切ってオンとオフを切り替えるようにしています。外からの情報を制限することによってオリジナルを生み出すことが出来るからです。 新しい知識を取り入れすぎないようにする、ということでしょうか? 現代に見られる多くの作品は、”情報の水”で薄められているものが殆どです。それはきっと、現代人のインプットとアウトプットにかける時間の比率が大きく偏っているからだと思っています。今はなんでもネット上で問題を解決することができますが、そのバランスを誤ると、本来私たち人間が潜在的に持っている直感力であったり、オリジナリティーが衰退してしまう原因にもなります。 例えば、面白いなと思う映画や小説の時代背景を辿っていくと、簡単に情報なんて得られなかった時代のものが多く、当時の芸術家は圧倒的にインプットが少なかったということが分かったんです。勿論、今の時代の変化と共に自身の思考や価値観も変わらなきゃいけない場面もありますが、自己を表現するという意味では、外部から得た情報ばかりでは脳に負荷がかかり過ぎてしまっていたり、いざという時に自身のアイデンティティーが発揮できない事があると思うので、日頃からインプットだけではなくアウトプットする為の余白も十分に持っておく必要があると思っています。 では、ルーティーンを決めずに不規則な動きをすることに対して理由はありますか? 不規則な動きをするというのは、不規則な動きが出来る様になるということに繋がっていると思います。 例えば、ジョギングをする時にも、家を出た瞬間に走り出すこともあれば、走ってみてすぐに歩き始めたり。いつもジョギングしているコースを全て歩くだけで終わってみたり。表現者として、不規則な中で生まれたアクシデントや自分が予想だにしないものに対してアクセプトして、力まずにアウトプットするという癖を作るために細かなルーティーンは決めていません。規則的な生活からも閃きはあるけれど、不規則な動きをしている方が、単純にいろいろ思いつくというのはあると思います。 ミニマルミュージックについて聞かせてください。音楽の多くが「足す」ことで構成されていますが、ミニマルな音楽は「引き」の考え方で構成されているかと思います。例えば、「MS005EP01」も非常に音数が少なくシンプルなのですが、同じ事をただひたすら繰り返すのではなく、微妙に変化していることが特徴的ですね。ベルリンでミニマル音楽と密接に触れ、Makotoさんの中で感覚が変わったことはありますか? ミニマルで一番代表的なのはテクノミュージックだと思います。テクノで一番大事なのは、結局”音”そのものです。キック一つに関してもその音自体のクオリティが非常に高いものでないといけなかったり、特にミニマルミュージックが盛んなドイツでは音自体に拘る人が多いので、自然と自分も足して作られたものの煌びやかさや華やかさというよりも、シンプルな音構成の中から生まれる複雑さを追求するようになりました。 ミニマルになると必然的に一音一音の音質ディテールが重要になってきます。しかもDATテープに一発録音なので、その一瞬を一回の録音で良いと思える音に仕上げる為に、ストレートレコーディングする際のレコーダー、アンプやコンプレッサーEQのチャンネルストリップ類には気を配り、その為に必要な最低限の機材を使っています。 […]

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  • ノイズバンド・夜光虫がUKのインディペンデントカセットレーベル”INDUSTRIAL COAST”より1st albumをリリース

    ベルリン在住の日本人アーティスト3人によるノイズバンド・夜光虫-noctiluca-の1stアルバム「Noctiluca – Prelude」が10月30日(金)にリリースされた。 今回、イギリスのノイズシーンで最も注目を集めるインディペンデントカセットレーベル「INDUSTRIAL COAST」からのフィジカルリリースされたということで、”夜光虫”というなんとも怪奇でおどろおどろしい名前が、ドイツから海を渡りコアな音楽ファンへと一斉に広まることとなった。 メンバーは、ベルリンアンダーグラウンドで活躍するピアニストRieko Okuda、サウンドアーティストMakoto Sakamoto、ギタリストRyusui Tatsumiのトリオで結成され、それぞれ実験音楽家でもある彼らは、ノイズ音楽界のディープゾーンに野盗の如く現れ、聴衆を怒号の渦で喰い尽くしてしまう程アバンギャルドな世界観を創り上げている。 そんな全員異端児のハードコアバンド夜光虫のデビュー&リリースに伴い、今回MOLSがショートムービーを制作。激しいフィードバックに切り裂くような轟音、その場で瞬間的に生み出されるノイズ芸術を30秒間に凝縮し、90年代のVシネマもしくは日本カルト映画のような映像が出来上がった。 最後に、夜光虫の音源について一言「カセットテープを最後まで聴いてみろ」。 フィジカルはいいよ、カセットテープデッキをお持ちの人は是非。カセットテープでの購入は、INDUSTRIAL COAST及び、夜光虫のbandcampページからお問い合わせをお願いいたします。 Released by Industrial coast UK Order the Cassette Tape at INDUSTRIAL COAST offical shop https://industrialcoast.bigcartel.com… bandcamp https://industrialcoast.bandcamp.com/… “Noctiluca – Prelude” A side – 20:09 B side – 20:09 All tracks are improvised & recorded in July 2019, Berlin Edited by Rieko Okuda […]

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  • 没入する:アウクスブルクの実験音楽フェス “re:flexions sound-art festival”

    ベルリンで毎年行われる実験音楽の祭典”Berlin Atonal”は、今年の開催を見送りに。私は、2019年に初めて参加したAtonalの写真を見返しながら、大きなダンスフロアで、爆音のなか思いっきり踊り明かせる日が来ることを待ちわびるしかなかった。 ”ニューノーマルな時代”と呼ばれることへの抵抗も無くなり、ベルリンでは徐々にではあるが、クラブイベントやライブパフォーマンスの開催も増え始めている。しかし、ベルリンで主流となっているFacebookページからのパブリッシュや招待は、警察の取締りが厳しく、昨今は、ダイレクトメッセージや、当日まで開催場所を公開しないアンダーグラウンドなイベント内容が目立ってきた。 やはり驚くのは、ベルリンで活動するアーティストたちのカルチャーに対する熱意と実行力である。そしてその中でも、アートの根を絶やさぬよう、今最も活発的で根強いジャンルが、エクスペリメンタル・ミュージックやサウンドインスタレーションである。 ベルリンといえばテクノの印象が強いが、テクノ・ミュージシャンがエクスペリメンタル・アーティストへと転向することは珍しくない。実験音楽へと没入するアーティストは、テクノ、パンク、メタル、ノイズ、時にクラシックと幅広く、無限の可能性を秘めた精神音楽のような気がする。 8月に入った頃、ヴァイオリニストのHoshiko Yamaneさんから、「re:flexions sound-art festival 2020」のコラボレーションアルバム「r/e」を頂いた。 「re:flexions sound-art festival」は、ベルリンから600km離れた街・アウクスブルクにて、2017年から毎年開催されている実験音楽の祭典で、このアルバムは、元々フェスティバルに招待されたアーティストたちによるリモートセッションで収録されたコンセプチュアル且つスペシャルな作品。今年は7月4日に開催される予定だったが、コロナウイルスによる被害拡大を懸念し、ラインナップを一部変更して開催されたそう。 参加アーティストは、Bu.d.d.A.(Sascha Stadlmeier&Chris Sigdell), Fabio Fabbri, Hoshiko Yamane, Agente Costura, Boban Ristevski, Occupied Head, Calineczka, Gintas K, Wilfried Hanrath, KOMPRIPIOTR, Lee Enfield, Waterflower,N​(​91), deepの13組。 ドイツで活動するアーティストたちに規則性はない。時とともに流れ、進化し続ける姿勢であることが、表現の幅を広げることに必要不可欠なのだ。 実験音楽というと日本では未だ馴染みの少ない音楽ジャンルではあるが、なんとなく実験音楽というジャンルが時代に追いつき始めたように感じる。現在、アルバムでの販売は終了している状態だが、bandcampで視聴可能となっているので、気になった方は是非聴いてみてほしい。 re:flexions sound-art festival Official Webpage

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  • CEEYS Interview “WÆNDE” The world you see and don’t see

    Interview: ARI MATSUOKA Date of interview: 27 July, 2020 Globalization is supposed to create a world where national “borders” become increasingly permeable and irrelevant, but, ironically, the world as we see it is crisscrossed with dividing lines. Our world today is full of divisions due to racial, religious, economic, generational and various other factors. What […]

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  • Dasha Rushが捉える音響空間とサウンドの関係性 – トイフェルスベルク元スパイ塔跡地

    words : ARI MATSUOKA ベルリンの壁が崩壊した1989年以降、物凄い早さで急成長を遂げるこの街には、今もなお未開発の廃墟が沢山存在している。ベルリンでは新旧の建造物が共存する魅力的な街でもあるが、やはり建物自体の寿命には敵わない。私自身、移民としてベルリンで過ごした1年間のあいだにも、老朽化したアパートや建造物が惜しまれながらも取り壊されていく瞬間を何度も目の当たりにした。 最近だと、ミッテ地区にあった「タへレス」というアートハウス(スクワット)が跡形もなく無くなってしまった。ベルリンアートのシンボルだったタへレスは、2012年の閉鎖以降、建物こそ存在を残していたが、私がこの街へやってきた2019年の夏、その面影はあっという間に消えてしまった。 こうして次々と現代に均されていく中、西ベルリンの小高い山の上にあるトイフェルスベルク元スパイ塔跡地にて、ベルリンで活動するダシャ・ラッシュがレコーディング実験を行うということで現地へ向かった。 「悪魔の山」と呼ばれるトイフェルスベルクは、第二次世界大戦の爆撃で廃墟になったベルリンの瓦礫を集め、それらを積み上げてつくられた人工的な山。冷戦時代にアメリカ軍とイギリス軍が、東ドイツ、さらにはソ連の無線傍受に適しているとして、西側諸国が諜報目的でレーダーを設置した。かつては盗聴用として建設されたスパイ基地だが、ベルリンのアーティストや音楽関係者たちはその特徴的なドーム型の空間に目をつけ、新たなサウンドスペースへと変貌させたのだ。 8月16日、この日のレコーディング実験は、出演者及び関係者からのダイレクトメッセージで招待されたものだけが参加出来るというパーソナルなイベントだった。駅から会場までは徒歩で約30分、西と東が資本主義と社会主義によって分断されていた当時を思わせる、その異様なドーム型の物体を目指して山の頂上へと向かっていった。 このイベントはドッツ・ギャラリーが主催しており、不定期で建物全体を使ったサウンドパフォーマンスやインスタレーションを行なっている。 上部にあるドームは、いわば自然な放物型のリバーブチャンバーとして用いられ、何百メートルもの音響ケーブルを使用し本館1階にあるドッツ・ギャラリーの録音スペースからドームへと音楽が送られる。ドーム内へ送られた音響信号はL/Rのスピーカーで再生され、その反響音が2つのマイクで録音され1階にある録音スペースへと返されるという仕組みになっている。 光の屈折と同様、音に関しても広い空間と狭い空間では音の鳴り方が異なり、空間に存在するオブジェクトの材質などによっても変化してくる。今回着目する点は、そのオブジェクト(元スパイ塔跡地)とドームを使った反響音(リバーブ)である。ループした同じ音源にも、リバーブを加えることによって音全体の肉付きが良くなり、艶っぽい印象を与えてくれる。アンビエントやエクスペリメンタルミュージックのライブパフォーマンスを専門とするサウンドアーティストたちにとって、音響空間表現を熟知することは非常に重要なことなのだ。 写真ではわかりにくいが、大きく開いた扉の奥にはドッツ・ギャラリーの録音スペースがあり、ダシャ・ラッシュとオペラ歌手のサロミエがパフォーマンスし、観客は目の前に設置されたオリジナルスピーカーから流れる幻想的な音響空間を楽しむ。 正直かなりマニアックな実験パフォーマンスだと思ったが、観客の中にはアーティストや音楽業界で活躍する人たちの姿が多く見えた。 会場で使用される機材はほとんどが自作のもので、写真のようなカートと一体となった移動式スピーカーが左右に2台設置されていて、左側のスピーカーからは録音スペースからリアルタイムで送られる音が流れ、右側のスピーカーからはドーム内へ送られ反響して返ってきた音が流れる仕組みになっている。 この日のメインアクトであったダシャは、自身のレーベル「フルパンダ・レコード」を主宰するDJ/プロデューサーであり、アーティストやダンサーと共に劇場や映画館などでインスタレーションを開くなど、より実験的で芸術的なサウンドアーティストとしても活動している。 今年はコロナウイルスの影響もあり、世界各国で音楽フェスや大きな野外イベントは軒並み中止。ベルリン市内では、未だライブハウスやクラブハウスの営業規制が厳しい状況にある中、常に音楽とその他芸術表現の融合を研究し続けるベルリンのアーティストたちの強い意志と実行力を目の当たりにした。ベルリンで活動するアーティストたちは、既にニューノーマルな時代へ突入していくこと受け入れている。寧ろ、コロナウイルスの猛威について未だ議論を交わしている人は少なく、自然環境問題や貧困国の食料不安など、更に大きなテーマについて真剣に考え訴えかけるような動きを見せているように感じる。 NASAは時々、宇宙からやってくる電波の振動を音に変換したデータを公開しており、音楽家ブライアン・イーノは天体物理学者と組んで星の内部で発生した音で宇宙オーケストラを作ろうとしている。これからの時代は、ただ流行りを追うものではなく、私たちの日々の暮らしに関係する言葉や雑音、自然音に寄り添うようなサウンドが求められるだろう。 Dasha Rush Official Webpage Instagram Alexandra Pyatkova YouTube DOTS Gallery Official Webpage Instagram

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  • 人種問題やウイルスによる国境封鎖、ニューヨークで活動する音楽プロデューサーFurozhに独占インタビュー

    Interview: ARI MATSUOKA Date of interview: 14 July, 2020 アメリカ・ニューヨークは世界で最もコロナウイルスのパンデミックに苦しんでいる。誰もが2メートルの距離を保ちながら立ち話しをするニューノーマルな時代へと変容し、家族や恋人、親しい友人とも気軽に会うことが許されなくなった。そんな中、ジョージ・フロイドの殺害から始まったBLM運動は未だ活発に行われており、私たち人間は社会の断片化ではなく更なる連帯が必要な状況だといえる。 ハウス、アンビエント、ダウンテンポ、トラップ。ニューヨーク在住 @offthescene_ のプロデューサー兼創設者である Furozh は、音楽スタイルを柔軟に変更してDJミックスのように聴かせることが出来るトラックメーカーだ。 分裂と格差がコロナウイルスの噴火によって明らかにされたニューヨーク。 市の現状について困難な状況の中、彼にメールでインタビューをした。 Q1 出身地を教えてください。  ニューヨーク・バーノン出身。 Q2 ニューヨークでは最近、3ヶ月続いたコロナウイルスによるロックダウンが解除されました(6月20日のインタビュー時)。人種差別デモの最中で、ニューヨークの街の様子や住んでいる人々の様子はどうですか?また、”curfew”制度とはなんですか? 多くの住民が、人種差別の問題よりも、コロナパンデミックによる生活への不安の方が気持ちも大きかったと思う。その中で起きた人種差別デモ(以下BLM運動)に参加する人々の中には、アメリカ政府に対する不満や、情勢への不安をただ発散するためだけに暴動を起こす者も多くいた気がするな。 ニューヨークでBLM運動が起きる以前やその最中も、罪のない黒人が殺されているという事実は変わらない。そして、デモが過激化することによって、アメリカに住む黒人たちが危険にさらされているということも事実なんだ。 “curfew(カーフュー)”とは、一般市民に対して公権力の行使として例外的な場合を除き夜間の外出を禁止するという意味で、ニューヨーク各地で実行されたもの。住民の安全を確保するためのもだと政府や警察は言っていたけど、実際のところは、僕たちニューヨークで暮らす市民たちの発言や正義を探し求める行動を抑制しているようにも感じたよ。 Q3 昼間のデモに参加している人たちと、夜間のデモに参加している人たちでは活動内容や人種に違いは見られますか?  昼間に行われるデモは家族連れや年配の方など、平和的で落ち着きがあり、それこそ”政治運動”と呼べるものだった。ただ、実際に見られている人数や参加している人数の規模は夜間の方が多くて、その大多数は若者たちによってデモが行われていたよ。人々の通勤時間や外出時間によって、年齢や人種は違っているように見えたかな。 Q4 あなたがニューヨークに住んでいて感じる差別はありますか?人種に問わず、セクシャル、宗教、世界観問いません。 勿論! Q5 私は有色人種という言葉が好きではありません。特に肌の色で不正に扱われることがあってはいけないと感じます。アメリカでここまでBLM運動が暴徒化してしまった理由はなんだったと思いますか? それはアメリカの国民が皆んな疲れているからだと思うな…。僕たちは何年もの間、この馬鹿げた運動にうんざりしているよ。多民族国家アメリカで暮らす有色人種と呼ばれる人々は、肌の色が異なるだけで殺されているという事実から目を逸らすことはない。 実際に僕自身もBLM運動に参加していたけど、アメリカ政府は黒人が肌で感じている不安や恐怖を本当の意味で理解していないように感じた。もし自分が違った人種で生まれていたら、この状況を見て一体どう感じるのだろうって色々考えることもあったよ。 Q6 ロックダウン後、音楽活動にどう影響がありましたか?  僕は自分自身を保つことが一番大切だと思っている。家族や周りの友人たちは「それが一番良いことだ」と言ってくれたけど、30歳黒人男性の一人として、今の現状で音楽活動を続けていくことは足踏み状態みたいで、正直苦しい時間だね。 人種差別は継続的に繰り返されている。黒人の奴隷制度は終わっていないし、教科書は、なぜ黒人への奴隷制度が適応されたのか、どうして未だにこの制度が終わらなかったのか、真実を述べたことはないし教えてもらったことはない。昔はKKKという白人至上主義者の団体による黒人狩りも日常的にあったし、今もなお、アメリカで生きる黒人が怯えて暮らさなきゃいけなくて、黒人は白人と心から安堵して話すことさえできないと感じている人もいる。 僕にとって音楽活動を続けることは、今世界でどのようなニュースが報道されているのか、真実のメッセージを強く届けるためにとても役立っているんだ。 Nas、public enemy、Mos Def、prodigy、KRS-one、ab-soul、CAPITAL STEEZ、2pac、etc…僕は尊敬する黒人アーティストから沢山のことを学んだよ。これらのアーティストは、黒人であるがゆえの心境や感じたことを覚悟と信念を持って発信していて、僕も今置かれた状況に決して目を背けず、しっかり受け止めようと思ったよ。 Q7 以前、アメリカのBLM運動の報道をニュースで見ました。彼らは暴動ではなく、ダンスや音楽で”平和的”な解決を求めていました。アメリカのデモを通して、あなたは音楽でどのようなメッセージを伝えたいですか?また、この問題を機に自身が変わった部分はありますか? 僕が伝えたいことはこの事件が起きた今も昔も変わらないよ。唯一変わったことと言えば、音楽制作の環境を今以上に整えようと思ったことかな。コロナウイルスでのロックダウンやBLM運動を通じて、自分と考え方や向いている方向が違うなと思った人とは反論せずにうまく距離を取れるようになったし、そのような人たちに囲まれることも無くなったよ。 Q8 ニューヨークで音楽活動を続ける理由はなんですか? この街は僕が音楽を始めるきっかけをくれた場所だし、僕が音楽を続ける理由を毎日思い出させてくれる場所なんだ。  Q9 人種、ウイルスによる国境封鎖、2020年は境界(Border)について考えさせられることが多い年のように感じます。”BORDER”という文字を見て、今感じることや思うことはありますか? 平等な社会はまだまだ遠く、世界は分離しているように感じるかな。 Q10 最後に、これからもニューヨークで音楽活動を続けていきますか? はい、勿論! […]

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  • Furozh Interview “SAY NO TO RACISM WE ARE ALL HUMAN”

    Interview: ARI MATSUOKA Date of interview: 14 July, 2020 New York, USA suffers from the most coronavirus pandemic in the world. Transforming into a new normal era where everyone can stand up to a distance of 2 meters and easily meet family, lovers, and close friends It seems that we human beings need more solidarity […]

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  • Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第二弾:後編(インタビュー後日談/考察)

    Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第二弾:後編(インタビュー後日談/考察)

    5月29日金曜日、ベルリン在住アーティストの菅原圭輔による11分間のアート映像作品「Raum」のオンライン上映会が行われ、本日、彼のウェブサイトより一般公開された。 【外部リンク】Keisuke Sugawara Web 前回、第一弾として「Raum」について幾つかテーマを抜粋したプロローグを執筆させてもらった。 【外部リンク】Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第一弾:前編(プロローグ) 今回第二弾ということで、本作上映後、特典映像として携わった時のアフタートーク全文と、本編についてのレビュー&考察について話していきたい。 まずは、菅原圭輔とのアフタートークの様子を紹介。 Raum in Conversation Keisuke Sugawara × MOLS ー まず、「Raum」という名前の由来とは? Keisuke : 「Raum」はドイツ語で「部屋(room)」という意味で、閉ざされた空間やスペースを人の心の中とイメージして制作したんだけど、なんかその限られた空間の中にいる一人の人物にフォーカスをあてたくて。だからこの題材でフィルムを制作しようとした時に、自然とこの名前が浮かんだんだよね。英語でも日本語でもなく、ドイツ語の響きや表現がぴったりだと思ったからかな。 ー Keisukeが作品を作るうえで、どのような場面からインスピレーションを受け、それをどのようにして作品に落とし込む? Keisuke : 割と自分の体験に基づいて印象に残っている風景や経験が沢山自分の中に残っていて、一つの作品を作るときに、その引き出しの中から摘んでイマジネーションを膨らましていったり、その物事から派生する物語と結びつけたりするかな。 例えば今回の作品でいうと、真っ白な部屋という風景と、一人の女性が椅子に座っている風景を頭の中でイメージを結びつけたりして、時にその情景に近い記憶をコラージュしながら作り上げていったな。ぼんやりある風景に対して、なんかこの小説の雰囲気が僕が見たあの風景と似てるとか、この音楽が頭の中にあるイメージにぴったりとはまるとか。元は多分その輪郭がぼやけたイメージや感情とかからインスピレーションを膨らましているね。 ー 本作のキャスティングについて、神嶋 里花さんを主演として迎えた理由は?また、普段作品を作るうえで人選に拘りはある? 今回に関してで言えば、作品の登場人物に対して既に自分の中でイメージがあって、表情や話し方、彼女自身が持つオーラが作風とマッチした、ということが一番の決めてだったよ。彼女からは、少しあどけなさも感じられつつ大人の女性のような魅力も感じられて、理想通りの女優さんが見つかったと思った。 なんか、僕は人の”目”が凄い好きで、ちょっ話が逸れると、ベルリン・アレキサンダープラッツ駅付近にある「ALEXA」に、眼球の写真を撮ってくれる場所があるのは知ってる? ー そんなサービスがあるの?! それは個人的にも知りたい… そうそう、本当に眼球だけを撮影するんだよ。しかもA1サイズくらいに引き伸ばして印刷してくれるらしい。それが凄く気になっててね。自分の目の写真が部屋に飾られているのは少し気持ち悪いなと思うけど(笑)。 人の目には沢山の情報があると思っていて人種によっても眼の色は様々。黒や茶色、それから青や緑。ここベルリンに住んでいると、様々な人種の人たちが暮らしているから、特徴のある目を見るとスーッと引き込まれるというか。今作の撮影の中で特に面白かったのは、主演の里花さんに目を閉じてもらって、開く瞬間に黒眼の部分が一瞬ピントを合わせる為に開くんだけど、その瞬間って肉眼ではなかなか確認できないし、カメラ越しでハッキリと見えた時は凄く引き込まれたな。 ー 映像作品を作るなかで「音楽」は密接な関係にあると思うけど、今回楽曲として選んだMakoto Sakamotoさんの「Yoin」を選んだ理由は? 2019年8月にMakoto Sakamotoさんの「Reflection」というアルバムがリリースされたという連絡があって、聴いてみたのがキッカケだったかな。全体を通して自分の好きなアンビエントでどこかドロッとした印象を感じて、アルバムを通して大好きで。その時から「Yoin」というタイトルが頭に残っていて、ピアノの音が反復されていく様や、序盤は静かに始まって、空間に溶け込んでいって、7分間の楽曲だけどその後もずーっとその場の空間を支配するというか。展開の少ないメロディーだけど、今作と凄くマッチするなと思えるような、運命的な出会いだったんだよね。 この作品には「ゆっくり、だけど確実にー」という一つのテーマがあって、作品説明にも載せてるんだけど、視覚的には淡々としなながらも、得体の知れない何かに動かされるような不穏さや違和感のようなものを感じたり、その”不穏さ”がこの楽曲と重なる部分を感じたかな。個人的には映像とあてはめた時にどちらも潰しあっていなくて、映像が楽曲のイメージを壊すことも無ければ、その逆も無く、絶妙なバランスでリンク出来たかなとは、編集を終えて通しで見た時にそう思ったな。あとは、単純にこの曲が好きだからかな(笑)。 ー 最後に、今後も映像作品を作っていきたい? 映像は今後も撮っていきたいなと思ってる。やっぱり舞台って空間が決まっているし、シーンを切り替えたくても「暗転」って言って照明を暗くして展開をもたせるくらいしか方法がないんだけど、映像って急に違う場面に飛んだり、時空を自由に操れるから面白いなと思うかな。 今後映像作品を作っていくという工程は、今まで自分がやってきた活動と離れていないなと感じるから続けていきたいなと思うし、あまりフィルムという部分だけに拘らず、映像作品は撮りたいな。もっと日常に寄り添った作品や、台本があって、今作よりも長いストーリーも撮っていきたい。その前に、ベルリンの街並みや風景を記録していきたいな。そういうミニアルなものは定期的にシリーズ化していって、「Raum」のようなストーリーのある作品も今後はチャレンジしていきたいと思っているよ。 ここからは、筆者による「Raum」のレビューと個人的な考察を話していきたい。 まず、全編を通して非常にシンプルでありながら、なぜ真っ白な部屋に一人女性が椅子に腰をかけているのか、一体誰に話しかけているのか、全貌が全く掴めないまま物語は進んでいく。 冒頭、彼女が話す会話の中で分かったことは、季節である。 彼女に対して「こんな朝には太陽があなたを祝福しているんだよ」と声をかける複数の人々。それに対して、彼女は少し微笑んだ後、冷めた様子で「あんな季節のあとには、みんな陽気になるみたい」と呟いた。”あんな季節”とは、冬のことだろうと、その時すぐに理解した。ドイツの冬は、街も人も暗く陰鬱な雰囲気で、空は全体的にグレー色。寒さは感覚を鋭くする。素足で踏み込む廊下の冷たさ、かじかむ指先や鼻先に意識を向けると、ドクドクと血が脈打つのを感じる。 春が「社交の芸術」ならば、冬は「孤独の芸術」と言えるだろう。冬になると感覚が冴え、他者との社交的な対話ではなく、自分の頭の中と対話がしたくなる。 監督の菅原も、そんなドイツの長く冷たい静かな冬が大好きで、また作中の彼女も「物思いに耽るのが好き」という発言からして、きっと冬が好きなのだろう。 […]

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  • Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第一弾:前編(プロローグ)

    Raum – 余白と”余韻”に人は何を想うのか – 第一弾:前編(プロローグ)

    4月、ベルリンで活動するアーティスト・菅原圭輔が初の演出・監督を勤めたショートフィルム「Raum」がようやく完成したと、本人から連絡があった。 1月、コンテンポラリーダンスを中心としたジャパンツアーを控えていた彼が、もう一つの大きなプロジェクトとして新たにショートフィルムを制作するという話は、2019年の時点から聞いていた。 Christina Dyekjærと一緒に主催する ”mellem to” プロジェクトで彼と出会って以降、彼の作品からは「生きるということ」そのものを問い、何度も反復して投げかけてくるほど強烈なメッセージを感じていた。何故なら彼自身、その意味の原型について深く知り尽くしていて、また、多くの人がその問いについてあまりに悲観的すぎることも知っているのであろう。 公開まであと三日、今回は二部構成にわたって、彼が手掛けた「Raum」について紹介・レビューしていきたい。第一弾は、「白い部屋」と主人公の「心理」にまつわるプロローグについて。 「Raum」という名前はドイツ語で「部屋」を意味し、作中に出てくる真っ白な部屋に、女性が一人椅子に腰掛けているシーンから始まる。彼女の身に纏うワンピースのセンスと対比して、瞳はどこかあどけなく、ちょうど少女と大人の間(はざま)にいるように感じた。 シンプルで飾り気のない退屈な部屋に腰掛ける彼女の表情はどこか不自然で、会話の中に出てくる街中の風景や人々に対してどこか冷めた印象だった。 作中、彼女は、淡々と目の前にいる”誰か”に最近あった出来事を話す。内容は至ってなんでもない日常のようにも感じるが、真っ白な部屋が、まるで彼女の世界から色というものを消し去ってしまったかのように見えた。 もし、世界から色が消えてしまったら。色の持つ感情への作用は強い。 朝、目が覚めた時に見る日差しが外で見るよりもずっと柔らかい琥珀色だということや、長い冬を終えたあとの新緑が、想像していたよりもうんとみずみずしい萌木色であることを教えてくれる。色というのは、ただ単に物質の特長を捉えるだけでなく、温度や触感までもイマジネーションさせる。 色を無くしてしまった時、私たちはただ、背後からゆっくりと忍び寄るなにかに怯え、昨日と今日を往来するだけの日々を過ごしてしまうのかもしれない。そう、彼女が話す風景の中には色彩が感じられなかった。 彼の舞台作品「mellem to」に同じく、今回の作品の登場人物に共通している心理課題はリフレクションにある。 リフレクションとは、簡単に言えば、ある経験をピックアップし客観的に経験を振り返ることを意味している。例えば、過去の失敗を振り返るときに、自分を責めたり他人のせいにしたりしていると、適切な学びを得ることができないように、冷静に客観性を持って振り返ってこそ、成長につなげることができる。リフレクションにおいて最も大切なことは、過去からの教訓を得て、次なる実践に活かすことだ。 ただ、作中の彼女にはそれがまだ明確に見えていないように思える。命(生)が有限であるという事実を知っていながらも、決して自身の思惑になぞらない出来事に、私たちは時として困惑し、無意識に思考と言動に矛盾した行動を取ることがあるのだ。 中盤に差し掛かり、だんだんと彼女の言動に違和感を感じ始めたとき、彼女が”あなた”と呼ぶ、花瓶を持った男性が登場する。彼女の思考と言動のちぐはぐが繊細で緊迫した空気を作り出し、事態はゆっくりと、でも着実に忍び寄ってくるー 今作で最も印象に残ったシーンは、クローズアップされた女性の瞳だった。 コンテンポラリーダンスを中心に劇場をメーンとしていた彼にとって、これまでは舞台全体の構図を熟知し、演者の躍動と観客のリアクションでその場のグルーヴ感を創り上げることが重要になっていたものが、今回は決められた画角の中でどのようにして躍動を伝えればいいのかを考えるのが楽しかったと言う。 主人公の言動とは裏腹に、うつろぐ眼や落ち着きのない手元をカットに取り入れることによって、彼女の奥深い過去と観客の深層心理を抉る不穏な空気感がそこには生まれていた。 また、今作で重要なエッセンスとなった音楽について、サウンドアーティスト・坂本真の楽曲「Yoin」が、作品と絶妙にリンクしていた。ショートフィルムの楽曲の多くは、風景の変化や物語の進行に合わせて曲調が変化することで躍動を与えるが、この楽曲は、目の前で起こる容赦ない出来事を抑揚ではなく僅かに針が振れる程度で変化をもたらしている。映像と音楽は、非常に重要で密接な関係にあるということを改めて認識させられた瞬間だった。「Yoin」が収録されている彼のアルバム「Reflection」については、以前考察レビューをアップしているので、そちらも是非チェックしてほしい。 【外部リンク】MAKOTO SAKAMOTO – Reflection 考察 【外部リンク】Keisuke Sugawara Website(画像をクリック) 「余白と”余韻”に人は何を想うのか。」このメッセージは、彼が創り出す全ての作品において、永遠のテーマでもあるように思う。 全編については、2日後の5月29日(金)に公開される彼のホームページから是非チェックしてほしい。 第二弾は「Raum」公開後に更新予定!! 菅原圭輔が初の演出・監督を勤めた本作は、キャストに神嶋里花、音楽に Makoto Sakamotoをむかえ、ある女性のモノローグ、その目線の先に見ているものに焦点を当てた11分間の短編アート作品である。 余白と”余韻”に人は何を想うのか。 *本ストリーミングは本編と特典映像を合わせた限定公開。 —————————————— タイトル:Raumキャスト:Rika Kashima http://www.anore.co.jp/rika_kashima/ Keisuke Sugawara https://www.keisuke-sugawara.com/ スタッフ:演出・監督 – Keisuke Sugawara助監督・編集 – Miho Yajima撮影 – 平野 […]

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