Reflection

ベルリンで活躍する音楽家Makoto Sakamotoさんの新しいアルバム「Reflection」が8月にカセットテープ及び、AppleMusic、Spotify、SoundCloud等のサブスクリプションにてリリースされた。まだ実際のパフォーマンスを拝見したことがなく、ファーストインプレッションとなる。


先ず、最近カセットテープが再熱している件について少し話したい。

やっぱりデジタル音源もいいけれど、アナログ音源として実際に物質として残すことは、本来人間が好んでやってきた「記録する」という習性に習っているように感じる。個人的には、今後、CDは衰退する、もしくはMDのようにこの世から無くなってしまうものだと思っている。そもそもCDというものは、標準44.1KHz/16Bitのデジタル音源であって、それをわざわざPCにダウンロードして聴いているような人ももはや居ないに等しい。物質として手元に残すのであれば、私はVinylやカセットのような、少々聴くのに手間がかかるものを選ぶかな〜とか考える。

アナログのいいところは、試聴者側が音を鳴らすまでの「所作」にある。

カセットであれば、透明のビニールカバーをチーッと剥がして、今や持っている家庭も珍しいだろうカセットデッキに挿し、暫くのリール音の後に続く音に耳を澄まして聴く、この一連の所作に愛着が湧くのだ。

そもそも、カセットテープはチープな音がするという言葉に少し疑問を持つときもある。カセットテープは、レンジ(音の帯域)がデジタル音源に比べると狭く、中音域にエネルギーが集中しているので、音に広がりが感じられにくいという部分はある。デジタル音源に比べ、収録できる周波数に限りがある分、その中でどれだけ空間を集約させるかに、昔のアーティストや音楽家は一生懸命考えたんだと思う。

“音の良し悪し”は、単に数字で測れるものでもなく、肌や匂いなど、五感を使って感じられるものがあるということに気づくことが出来れば、もっと面白くなるのになと思う。


「Reflection」に収録されている楽曲について、実は本人より事前にこのアルバムのコンセプトについて話を伺っていた。ただ、完全に個人の意見になるが、特に印象的に残ったシーンをタイトルと一緒に、今回は解説ではなく、考察していきたい。

1.「I Hope You’re Feeling Better」

先ず「Reflection」の全体を聴いて初めに感じた印象は、宇宙空間のような壮大でスピリチュアルなものというより、どこかパーソナルで、郷愁のようなものだった。

「I Hope You’re Feeling Better」の冒頭、目を瞑ると見えてくるのは、ノスタルジックな色合いに染まった風景で、靄がかった草原や浅い川が見える。人の気配も感じられず、ただグレーでスモーキーな風景が広がっているだけ。

途中から、ふと、人の気配を感じるのは、一台の小さな白い車が、ただ真っ直ぐで平たい道を走ってゆくのが見えたから。それまで気配のしなかった様子から、もっと感覚を集中させると、徐々に辺りの濃淡は薄まり、遠くで1軒の小屋が見えたり、鳥が数羽、浅瀬で水を飲んでいたり、徐々に視界がひらけてゆく。

冒頭1曲目から13分というとても長い楽曲だが、1曲目にして、このアルバム全体のエピローグ(物語の結び目)を表しているようで、アルバム全体の重要なテーマを訴えかけてくるように聴こえる。曲の始まりと終わりで、少しの余白というか、敢えてホワイトノイズのような音が流れる。まるでVHSをビデオデッキに入れた後のほんの少しの”ポーズ(休止)”みたいだ。1枚の写真を見て、そこからある程度のストーリーが把握できるように、「I Hope You’re Feeling Better」は作品全体の回顧録なのだ。

そういえば、アナログレコードに関して、外周を使う1曲目の方が音質的には有利であり、音楽の情報量は時間あたりにトレースできる溝の長さに比例するので、外周の方が音質は良くなる。だからアナログレコードは1曲目が最も推したい曲である、という話を思い出した。

2.「Reflection」

続く、2曲目にアルバムのタイトルでもある「Reflection」。1曲目で早速、このアルバムの核の部分を見たような気になったので、ここからようやく物語のページをめくっていく感覚だった。

この曲では視点が変わって、部屋の中で眠っている最愛の人の息遣いや、体温を感じる。シーン全体を捉えるというよりかは、ズームした視点で、肌質や髪の柔らかさを間接的に触れているような感覚だった。シルクのカーテンの奥で反射して、眩しいけれど、その先に、愛おしさや尊さを感じ、相手を想う。シンプルなピアノのメロディーが穏やかで、その音が何層にも重なり、輪郭がぼやけてゆく様子が視覚化される。この曲を聴いていると、母親や父親から優しく撫でられながら眠りについた幼い頃の記憶が蘇る。きっと親にとって子は、光のように尊く繊細な存在であり、無償の愛を注げる形のある命なのだと語りかけてくるかのように。

3.「You Are Thinking About Yourself」

前2曲と比べ圧倒的に短く、時間の速度が違って見えた。まるでフラッシュバックしているかのような断片的な記憶が幾重となく繰り返され、そして、もう戻ることはない違うステージへ進んでいくようだ。

2分30秒という時間の中で、これまでの2曲は1シーン限りの断片的な物語に見えていたものが、3曲目で一気に形が交ざり、”浄化”されていき、そして現在・未来へつながっていくようなそんな気分になった。体感速度ではとても早く感じるが、恐らく、時間の経過は曲の時間に反比例し、とても長い年月を集約したものを表しているように思えた。

4.「Will Soon Calm Dawn」

ここまでで、自分の心拍数が少し荒々しく、やや乱れていることに気付く。

このアルバムを聴いて感じたことは、収録された全ての曲を最初から最後まで通して聴くと柔らかな曲として聴こえるが、一曲一曲はとても重く、静寂の奥にある違和感と緊張感にはっとする。安心と不安、私たちは常に両方を求めている。

音楽とは、私たちが想像するよりも、もっと形をなくすことも出来れば、あらゆる形にだってなれる。そんな道しるべを見つけたように感じて、この自分の異変にも納得がいくような気がした。

「Will Soon Calm Dawn」では、過去の記憶から覚め、冒頭1曲目で見た同じ風景が見える。広い草原や浅い川は以前よりも明るく澄んで見え、身に纏った洋服の裾が風にそよぐ。霧は遥か遠く、初めにいたあの頃からは随分と時間が経ったようで、もしかしたらほんの数分前のことだったのではないかと、やや寝ぼけた様子で考えているように見える。

5.「See You Again」

私はこのアルバムを通して、これまでの過去の音楽で培った感性は捨て、ありのまま、素直に感じるままに書いてみようと思った。この考えを持って「See You Again」を聴くと、1曲目と4曲目、2曲目と5曲目の印象が少し似ているように感じる。

1曲目に初め感じていたエピローグという表現も個人的には好きな考察だが、「I Hope You’re Feeling Better」が過去で「Will Soon Calm Dawn」が今ある風景、「Reflection」が幼い頃の記憶で「See You Again」が大人になった今の自分が見ている景色。前に見た世界はもうそこには無い、けれど、たしかに”存在はしていた”。目の前で容赦なく起こることや、それに触れた瞬間の驚きを、そのまま音で表現することはできるか。世界の豊かさと素っ気なさをどれだけ表すことができるのかと、つい哲学的に考えたくなってしまうが、もしかしたら私が思っている以上に軽く、ソフトな曲なのかもしれない。

6.Yoin

「余韻に浸る」「余韻を感じる」という言葉があるように、余韻とは、人が感動することによって生まれるものだ。映画のエンドロールを最後まで観るタイプの人であればより理解してくれるだろう。決して暗い音楽ではないはずなのに、どこか陰鬱な、そんな印象をほのかに残して去ってゆく。

このアルバムの終わり方はロシア映画によく似ている。カラーとセピア色の映像が交互に映し出されるシーンに規則性はない。私は、私の思う、完璧なロケーションで、敢えて爆音でブリコラージュしながら聴きたいと思った。

アルバムとは全ての曲を通して聴くものであり、最近の人たちは通しで聴かなくなってきたように感じる。プレイリストではなく、アルバムを通して聴いてほしいという、そんな思いを感じた。

sound – MAKOTO SAKAMOTO
SoundCloud – @makotosakamotorecordings
BandCamp – makotosakamotorecordings.bandcamp.com
YouTube – www.youtube.com/channel/UChpfxZCYCFZjHOussOjdTRg

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