
Interview: ARI MATSUOKA
Date of interview: 14 July, 2020
アメリカ・ニューヨークは世界で最もコロナウイルスのパンデミックに苦しんでいる。誰もが2メートルの距離を保ちながら立ち話しをするニューノーマルな時代へと変容し、家族や恋人、親しい友人とも気軽に会うことが許されなくなった。そんな中、ジョージ・フロイドの殺害から始まったBLM運動は未だ活発に行われており、私たち人間は社会の断片化ではなく更なる連帯が必要な状況だといえる。
ハウス、アンビエント、ダウンテンポ、トラップ。ニューヨーク在住 @offthescene_ のプロデューサー兼創設者である Furozh は、音楽スタイルを柔軟に変更してDJミックスのように聴かせることが出来るトラックメーカーだ。
分裂と格差がコロナウイルスの噴火によって明らかにされたニューヨーク。 市の現状について困難な状況の中、彼にメールでインタビューをした。
Q1 出身地を教えてください。
ニューヨーク・バーノン出身。
Q2 ニューヨークでは最近、3ヶ月続いたコロナウイルスによるロックダウンが解除されました(6月20日のインタビュー時)。人種差別デモの最中で、ニューヨークの街の様子や住んでいる人々の様子はどうですか?また、”curfew”制度とはなんですか?
多くの住民が、人種差別の問題よりも、コロナパンデミックによる生活への不安の方が気持ちも大きかったと思う。その中で起きた人種差別デモ(以下BLM運動)に参加する人々の中には、アメリカ政府に対する不満や、情勢への不安をただ発散するためだけに暴動を起こす者も多くいた気がするな。
ニューヨークでBLM運動が起きる以前やその最中も、罪のない黒人が殺されているという事実は変わらない。そして、デモが過激化することによって、アメリカに住む黒人たちが危険にさらされているということも事実なんだ。
“curfew(カーフュー)”とは、一般市民に対して公権力の行使として例外的な場合を除き夜間の外出を禁止するという意味で、ニューヨーク各地で実行されたもの。住民の安全を確保するためのもだと政府や警察は言っていたけど、実際のところは、僕たちニューヨークで暮らす市民たちの発言や正義を探し求める行動を抑制しているようにも感じたよ。

Q3 昼間のデモに参加している人たちと、夜間のデモに参加している人たちでは活動内容や人種に違いは見られますか?
昼間に行われるデモは家族連れや年配の方など、平和的で落ち着きがあり、それこそ”政治運動”と呼べるものだった。ただ、実際に見られている人数や参加している人数の規模は夜間の方が多くて、その大多数は若者たちによってデモが行われていたよ。人々の通勤時間や外出時間によって、年齢や人種は違っているように見えたかな。
Q4 あなたがニューヨークに住んでいて感じる差別はありますか?人種に問わず、セクシャル、宗教、世界観問いません。
勿論!

Q5 私は有色人種という言葉が好きではありません。特に肌の色で不正に扱われることがあってはいけないと感じます。アメリカでここまでBLM運動が暴徒化してしまった理由はなんだったと思いますか?
それはアメリカの国民が皆んな疲れているからだと思うな…。僕たちは何年もの間、この馬鹿げた運動にうんざりしているよ。多民族国家アメリカで暮らす有色人種と呼ばれる人々は、肌の色が異なるだけで殺されているという事実から目を逸らすことはない。
実際に僕自身もBLM運動に参加していたけど、アメリカ政府は黒人が肌で感じている不安や恐怖を本当の意味で理解していないように感じた。もし自分が違った人種で生まれていたら、この状況を見て一体どう感じるのだろうって色々考えることもあったよ。

Q6 ロックダウン後、音楽活動にどう影響がありましたか?
僕は自分自身を保つことが一番大切だと思っている。家族や周りの友人たちは「それが一番良いことだ」と言ってくれたけど、30歳黒人男性の一人として、今の現状で音楽活動を続けていくことは足踏み状態みたいで、正直苦しい時間だね。
人種差別は継続的に繰り返されている。黒人の奴隷制度は終わっていないし、教科書は、なぜ黒人への奴隷制度が適応されたのか、どうして未だにこの制度が終わらなかったのか、真実を述べたことはないし教えてもらったことはない。昔はKKKという白人至上主義者の団体による黒人狩りも日常的にあったし、今もなお、アメリカで生きる黒人が怯えて暮らさなきゃいけなくて、黒人は白人と心から安堵して話すことさえできないと感じている人もいる。
僕にとって音楽活動を続けることは、今世界でどのようなニュースが報道されているのか、真実のメッセージを強く届けるためにとても役立っているんだ。
Nas、public enemy、Mos Def、prodigy、KRS-one、ab-soul、CAPITAL STEEZ、2pac、etc…僕は尊敬する黒人アーティストから沢山のことを学んだよ。これらのアーティストは、黒人であるがゆえの心境や感じたことを覚悟と信念を持って発信していて、僕も今置かれた状況に決して目を背けず、しっかり受け止めようと思ったよ。

Q7 以前、アメリカのBLM運動の報道をニュースで見ました。彼らは暴動ではなく、ダンスや音楽で”平和的”な解決を求めていました。アメリカのデモを通して、あなたは音楽でどのようなメッセージを伝えたいですか?また、この問題を機に自身が変わった部分はありますか?
僕が伝えたいことはこの事件が起きた今も昔も変わらないよ。唯一変わったことと言えば、音楽制作の環境を今以上に整えようと思ったことかな。コロナウイルスでのロックダウンやBLM運動を通じて、自分と考え方や向いている方向が違うなと思った人とは反論せずにうまく距離を取れるようになったし、そのような人たちに囲まれることも無くなったよ。
Q8 ニューヨークで音楽活動を続ける理由はなんですか?
この街は僕が音楽を始めるきっかけをくれた場所だし、僕が音楽を続ける理由を毎日思い出させてくれる場所なんだ。

Q9 人種、ウイルスによる国境封鎖、2020年は境界(Border)について考えさせられることが多い年のように感じます。”BORDER”という文字を見て、今感じることや思うことはありますか?
平等な社会はまだまだ遠く、世界は分離しているように感じるかな。
Q10 最後に、これからもニューヨークで音楽活動を続けていきますか?
はい、勿論!
”BLM運動”の影で、新型コロナウイルスの感染拡大によるアジア系住民への憎悪犯罪(ヘイトクライム)も残念ながらアメリカのみならず、ヨーロッパでも増加している。ニューヨーク市では2020年3月から8月にかけ、計21件のアジア系住民への憎悪犯罪を摘発した。昨年の1月から8月までアジア系への憎悪犯罪は3件だったことを見比べると、情勢が激変しいている最中とはいえ、少なからずアジア人やアジアにルーツを持つ人々への攻撃が拡大していると言える。
私たちは、自分と似たような境遇や世界観や人種で、沢山の小さなコミュニティーを作りがちだ。特定のグループへの安易な恐れや嫌悪が、社会の分断をさらに進める可能性があることを私たちはもっと認知するべきなのかもしれない。
Furozh New Album “SET ME FREE”
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