documentary and culture magazine

非表示ルートを走る

ベルリンに来た時が5月21日。あっという間にベルリンに滞在してから半年間が経過し、ヘッドホンを着けながら電車に乗ることも怖かった当時も、今では半分寝ながら乗り継ぎができるほど、この街にも”とりあえず”慣れてきたように感じる。

暫くは電車での移動がメインだったが、ある日マコトさんから今は使わなくなったお下がりのBMXを譲っていただいた。マコトさんは簡単に説明すると「ベルリンの灰野敬二」みたいな人で、いつも会話の最後は「今日も話し過ぎた」と言ってごめんねと謝ってくれるサイコな部分もあるけれど優しい人だ。

11月の早朝5時半、私はGoogleMapに表示された通りのルートを走っていた。自宅から目的地までの間には大きな下り坂があり、その下り道の一番裾まで一気に下り切ったところで、交通量の多い道路を直線に走る経路だった。その経路をマコトさんに話すと「その道よりもっと景観も良くて最短距離の経路があるよ」と、地元を精通したタクシードライバーの如く、マップには載らない”非表示ルート”の通り名から何個目の曲がり角を右折する等、詳しく教えていただいた。

GoogleMapでは教えてくれない経路に若干の不安を覚えながら、翌日教えてもらった通り、大きな下り坂を降りる直前、自転車道のある道へ右折する。以前の道は景観も淡々としていて交通量も信号も多く、各所で信号機に引っ掛かり失速しなければいけない時が多かった。だが、新しく教えてもらった道にはしっかりと自転車道が確保されており、景観も良く、信号機も少ない。考え事や思いに耽るには格好の経路だった。

そして何より、GoogleMapで最短ルートとして表示されていた道よりも近く、体力の消耗も少なく済み、流石、長く住んでいる人の言うことは本当だったと後日電話で感謝を伝えた。

この日から、走りながら独自のルートを見つけ出すことも大切だけど、こうして初めからショートカット出来る部分は人から習って試してみることも学び、そのお陰で毎日の自転車移動が楽に感じるようになったし、地図も見ずに景観や通り名で大体の居場所が分かるようになった。

自転車に乗っている間、基本的には最近起こった出来事や最近話した話題について振り返ることが多い。最近でいえば、自身の言動に対して賛否両論やヘイターが出ることに対して恐れない様に構えることだったり、中途半端な知識や文章には誰の心も動かせないということ。

文章を書く人のことを表現者とするならば、本当に読まれるものは、何かヤバイことが書かれていそうだったり、タイトルを見てハラハラドキドキしたりするものなんだろう。

ライターやジャーナリストはどうしても情報量過多になりやすく、広く浅くなってしまいがちな面もある。だけど私はもう少し、自分の性格に慣い、いっそのこと完全にアンダーグラウンドに振り切ってしまってもいいのかもしれない。私はくそったれの馬鹿野郎だから。何度も「そうした方がいい」と言われながらも、どこかで身綺麗で居たいという自分もいたから、放送コード気にしたり禁止ワードに過敏になりすぎていた部分もある。

ただある程度「非表示ルート」を上手く通り抜けるためには、先ほどの自転車ルートのようにAパターン、Bパターン、複数のパターンを認知していることが重要だったり、また走っている時の景観が大事みたいなことと同じように、執筆中のフィーリングが「気持ちいいかどうか」という部分が、シンプルだけど大切だったりする。

不愉快なものを愉快がる人もいるし、批判・批評する人生の先輩と呼ばれる人たちも、恐らく私より先に死ぬ。そう思えばちょっとくらい枠からはみ出してもいいかもしれないな。今はまだ恐る恐るだが、少しずつ、マップに載っていない独自のルートを作る過程段階へ突入する。


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